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月ノ揺籠

日記とか感想とか絵とかお返事とか徒然に。 ワートリ:嵐時・諏訪荒・当奈良。 ※イラストや小説等の許可のない転載・発行を禁止します。

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「かわいい!!」
 開口一番、挨拶よりも先にそう言って、雛森は瞳を輝かせた。
 その視線の先にはダンボール箱、の中に、二匹の真っ白な仔猫。
「どうしたの、このコたち?」
 古タオルに包まれてまどろむ仔猫に手を伸ばしながら、日番谷に訊ねる。
「知らん」
 不機嫌さを隠そうともしない日番谷の返答に、雛森はきょとんとした。
 目で説明を求める。
「朝起きたら置いてあったんだよ」
 ため息まじりにそう言って、雛森に紙切れを指し示す。
 曰く、

『ヨロシクv』

「…………」
 ご丁寧に真っ赤なキスマークつきである。
 記名はされていないが、このキスマークが何よりも雄弁に犯人(?)の正体を物語っている。というか、この家でこんなことをする人物なんて雛森の知る限りひとりしかいない。
「……乱菊さんは?」
 恐る恐る、雛森は訊ねた。
 その名を口にした瞬間、日番谷の纏うオーラが閻獄の焔のごとく立ち上った。眉間の皺も深くなった。けれど雛森になす術はない。とりあえず大人しく日番谷の返事を待った。
「まだ寝てる」
 忌々しげに吐き捨てる。
 夜のお仕事をしている乱菊は、明け方帰ってきて夕方に出かける。起きるのは大抵昼頃だ。
 一家の家計は乱菊に支えられていると言っても過言ではないので、日番谷は寝ている乱菊を絶対に起こさない。
 優しいなぁと雛森は思うのだが、わざわざ言うことでもないから口にはしない。
 それでも表情には出ていたらしく、日番谷にはなんだよといった感じに睨まれてしまったが。
「ねぇ、日番谷くん。このコたちどうするの?」
「飼うんだろ。くそ、また俺が面倒みるのかよ」
 乱菊は時々、なんの前触れもなく動物を拾ってくる。この間は雀だった。片方の翼に負っていた傷が癒えて放したのは、記憶にまだ新しい。そしてその雀もやっぱり、世話をしたのは日番谷だった。
 悪態をつくそのさまは諦めているようでもあるし、すでに受け入れているようにも見える。なんだかんだ言って、この小さな仔猫たちを再び捨ててくるようなことは日番谷にはできないのだ。
 やっぱり優しいなぁ。
 雛森は心の中で仔猫たちに呼びかけた。
 よかったね、優しいひとたちに拾われて。

 傷ついた雀を、捨てられていた仔猫たちを見捨てられない乱菊も。
 悪態をつきながらも、受け入れ、かいがいしく世話をする日番谷も。

 雛森の周りには優しいひとたちばかりで、それがとても嬉しくて、誇らしい。

 自然と緩む頬をそのままに仔猫の背を撫でていると、ふと、身じろいだ。
 起こしちゃったかなと慌てて手を引っ込める。
 けれど既に遅かったようで、仔猫はむくりと身を起こすと、眠気を追い払うようにふるふると頭を振った。
 その目がぱちりと開かれて。
 雛森を見上げた。
「――――……」

 碧の、瞳だった。

 深い海の底のような。
 萌える春の樹木のような。

 鮮やかな、碧。

 まるで、白銀の幼馴染の瞳のような――――。

「……ねぇ、日番谷くん」
「あ?」
「このコ、貰ってもいい?」
 唐突な雛森の申し出に、日番谷は軽く目を瞠る。
「……いいのか?」
 二匹を世話するのは大変だろうからと、そういう意味で雛森が引き取ると言ったのかと日番谷は考えた。
 そんな日番谷の思考が伝わったのか、雛森は仔猫に視線を向けたままくすりと微笑んで、違うよと言った。
 腕を伸ばして、そっと碧目の仔猫を抱き上げる。
 大人しく腕の中に納まった仔猫は、雛森を見上げてにゃあと鳴いた。
 まるでよろしくと言っているように聞こえて、そんなガラでもない己の思考に日番谷はちょっと驚いた。
「よろしくね」
 彼女にもそう聞こえたらしい。微笑んでそう返した。
 優しく耳の後ろを撫でてやると、仔猫は気持ちよさそうに目を細めた。
「名前考えないとね」
「ついでにこいつのも考えてくれ」
「えー、日番谷くんも一緒に考えようよ」
「メンドイ」
「もー、しょうがないなぁ」
 台詞とは裏腹に、どこか楽しそうに雛森は言う。
 仔猫を見下ろすと、心地よかったのか眠ってしまっていた。
 小さな身体が呼吸に合わせてかすかに上下する。体毛は一点の曇りなく真っ白で、それはまるで雪のようだった。
 ぽつり、と。
 ひとつの単語が雛森の脳裏に浮かぶ。
 それを舌の上で転がすように幾度か呟いて、雛森は満足げに頷いた。

「白雪」

「……しらゆき?」
 確認するように、日番谷が訊ねる。
「うん。雪みたいに真っ白だから」
「安直」
「いいのっ」
「まぁいいけどな、そいつ、雄だぜ?」
「そうなの?」
「碧目が雄で蒼目が雌」
 そうなんだ〜とどこか嬉しそうに呟く雛森に、日番谷は胸中で小首を傾げた。
 「白雪姫」から取ったのかと思ったのだが、どうやら違うらしい。
「で、こっちは?」
 いまだダンボールの中で眠り続けているもう一匹を視線で示す。
 雛森はじっと仔猫を見つめたあと、ぽつりと名前を呟いた。


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 なぜか続いております仔猫シリーズ(シリーズ?
 乱菊さんはお金持ちな市丸氏が趣味で経営している風変わりなバー(?)で歌ったり配ったりお話したりするお仕事です。最初ホステスにしようと思ってたんだけど資料が見つからないからオリジナルにしたなんてこと内緒です。
 なんかこのまま詳しい設定書き出して長編になりそうな予感……。

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